カテゴリ:★デビューCD解説( 1 )

(注釈:2010年6月30日のデビューCD日本国内での販売にあたり、当時D-Musikaレーベルに所属しておられた水野悠さんが、CDの日本語解説として下記をご執筆下さいました。)


『「今です、今!!毎日、100%ジャズのために生きている私。」
(08年08月たなかさんのブログより)

本作はこんな熱く、前向きな気持ちでジャズの最前線NYで活躍するピアニスト、たなかかつこさんの1stリーダー作である。

メンバーはL.A.時代からの友人Danton Boller(b)、Willie Jones Ⅲ(ds)、そしてゲストで1曲Antonio Hart(as)という、素晴らしく豪華な面々である。実はトリオとしては録音前のリサイタル1回と本作の録音、Antonioを加えたカルテットは、初の組み合わせでありながら、リハ+2テイクのみながら、Danton、Willieとは何とたなかさんが「ほぼ英語が話せなかった頃からの長い付き合い」というまさしく盟友、Antonioは2008年から在籍したクイーンズ大学院での恩師と、同じコンセプトを共有できており、遠慮のない4人ならではな、レギュラーグループのような演奏を聴かせてくれる。

そんな中、もちろん、クラシックを出自にもつたなかさんのピアノは、しなやかにうたい、的確なタッチで、特に和音のバランスの良い鳴らし方と展開は特筆モノ。とても楽しませてくれる。
ではそういった技術が魅力の要因だろうか?答えは当然ちがう。

なんといっても本作の最大の魅力はオリジナル曲を主軸とした「音楽」そのものだろう。

ここに主役としてあるのは「豪華なプレーヤー達」でも「技術の饗宴」でもなく、5曲のオリジナルとスタンダード1曲、オスカー・ピーターソンそしてジョン・ヒックス作曲の2曲(それぞれ初演は64年「Canadiana Suite」(LIMELIGHT)、79年「After The Morning」(WEST54 未CD化))によって構成された、まさしくたなかさんが表現することを求め続けた「音楽」だろう。

冒頭でも引用させていただいた、たなかさんのブログを読むと、クラシックからジャズへと転向し、必死に前を向き、L.A.から帰国後の日本で、そして現在の拠点であるNYでの研鑽が、非常にさわやかな文章で書かれている(このCDを手に取ったみなさま、必読ですよ)。
その中で作曲に関してこんな記述がある。
2006年7月のブログより
「これまで引っ越しが多かったせいか私は土地の印象に敏感で、(中略)東京時代には目白通り沿いの早朝「Dawn」を描いて、ライブでも演奏している。」
疾走感溢れる本作のオープナー「Dawn」の誕生秘話なのだが、各曲のそれぞれ個性際立つ作りにはこういった背景も大きく影響しているのだろう。
L.A.時代にメンバーのDantonの曲に影響されたという2曲目「Shell」も華麗な美しさと優雅なテーマ、その世界を受け継ぐ物語性のあるソロが聴けるワルツの佳曲である。
柔らかに紡がれる会話、ゆるやかに流れる時間を感じさせる4曲目「A Midnight Talk」。雰囲気は一変してゲストのAntonio Hart(as)が縦横無尽に駆け巡り、たなかさんの切れ味冴えるコンピング~ソロ、華麗に倍テンするリズムからソロまでWillieも名人芸と呼ぶに相応しいドラムを聴かせてくれる5曲目「Stretching」。活動の拠点を日本~L.A.~日本(東京~大阪)~NYへと移すたびに経験しためぐり合いや別れを交差点に例えた美しい5拍子のタイトルトラックの6曲目「Beyond The Intersection」。
オリジナルだけでなく、原曲の旋律から呼吸まで大切に解釈された”小麦の国”を意味するO・ピーターソン作の3曲目「Wheatland」、作曲者J・ヒックス自身も何度も録音し、没後にはトリビュート作にも収録された名曲「After The Morning」の胸を締め付けるような情熱の迸り、そして8曲目の有名スタンダード「It Could Happen To You」の愛らしい表現。カヴァー曲も素晴らしい出来栄えである。

そして、数々興味深い言葉が記されたブログの中から、たなかさんの原動力ともいえる記述を引用させていただきたい。
2006年10月のブログより
「クラシックピアノ奏者だった私にとって、有名な曲も自作の曲も「自分らしい」表現をしているjazz musicianは、自分らしい生き方をしている、それは自由で楽しくエネルギッシュなことをやってる人達に見えた。周囲を見ると、jazz musicianとして成長する速度とその人の音楽に対する愛情の深さ、artistとしての成熟度と愛情を注ぎ続けた時間は、それぞれ比例するんじゃないかと最近感じる。」
この文中の「愛情を注ぎ続けた時間」は、きっといまでは「愛情を注ぎ続けた時間の密度」と、たなかさんの心の中では変わっているのではないだろうか。

一期一会の瞬間だけではなく、深い愛情でじっくりと熟成され、自由な表現と高いエネルギーの流れを持ってこのときを迎えた、たなかさんの「音楽」がここにある。』




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左から, Danton Boller(ダントン・ボラー), Willie Jones III(ウィリー・ジョーンズ III), たなかかつこ, Antonio Hart(アントニオ・ハート)
2009/12/16 ニューヨーク, ブルックリンにて
(Photo by Yoko Matsumoto)