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ピアノ事情 (No.1)


現在住んでいる部屋の半年リース契約が終わるので、8月にクイーンズからマンハッタン北端にあるワシントン・ハイツに引っ越す。ピアニストにとって、毎日ピアノが弾ける環境というのはとても大事だ。よくキーボードではダメなの?と聞かれるが、ダメです。タッチが違うので指の筋肉が正常に維持できないし、キーボードは倍音が鳴らないので、弾いた時の音の響きが違う。昔はもっと贅沢な悩みで、家にグランドピアノがほしかった。アップライトはハンマーが弦を横から打つが、グランドは下からなのでタッチが全然違う。音大生5%割引を使うこともなく、音大時代は学校で練習してしのいだ。NYで音楽学部に入った理由のひとつは、即日練習室が使える事。クイーンズ大には20室ほど良いグランドピアノを置いている部屋があるがスケジュールが定かでなく、せっかく遠くまで行ったのにあまり使えず時間を無駄にする日が多い。そんな訳で、ピアノが練習できる部屋を探すことにした。

が、私の予算で1人暮らしは絶対無理。1人暮らしをしようとすると家賃月10万は軽く超える。もちろんマンハッタン内は倍以上高い。で、平日昼間働いている人との同居物件を探していくうちに、良い話はいくつかあったが、階段で2階以上の所がほとんどだった。レンタルピアノ業者に聞くと、階段1段につき$5、2階はそれプラス特別料金$45が加算される。往復の費用と敷金、調律費も要る。そうこうしているうちに、新しいピアノを買うから安く譲ってくれるという話が来た。うん、とてもありがたい話だけども、家がまだみつからない。。。。

今まで一体どうして来たんやったかなあ、、、?
振り返ってみて、ちょっと自分のしてきた事が恐ろしくなった。

音大を出てすぐ大阪で1人暮らしをしていた時は、親友からカーツゥエルのキーボードを借りていた。当時坂本龍一やスティービー・ワンダーが使っていたのと同じモデルの高級なMIDIキーボード。しかしそのタッチでは物足りないので、どういう経緯か忘れたが、お世話になっていた安則雄馬先生・和子先生が所有する堺シティオペラの新しい練習スタジオ内にある、とても状態の良い新しいヤマハのグランドピアノで毎日練習させて頂いた。20代前半で恥ずかしいことですが、当時はスタジオ代が普通いくらかかるか、というよりスタジオ代という存在すら全く知らず、今から考えたら背筋がぞっとする。安則先生ご夫妻には大変お世話になり、私もそういう気持ちを常に忘れてはいけないと思っています。

その後カリフォルニアに住み、やはり学校の練習室を使った。夜は人がいなくて物騒なのでトイレには怖くて行けない。なのに、風邪で寝ていた日に同じ学校に通っていたベースのダントン・ボラーが突然うちに来て、あまりに良い曲が出来たからピアノで弾いてみてくれといって、夜12時頃毛布にくるまってに練習室へ行った事がある。ルームメイトにアンタ達はクレイジーだと呆れられた。モード系の奇麗な曲で、私のオリジナル曲「Shell」はそれに少し影響されている。その後ロングビーチ市からロスアンジェルス市に引っ越した。近くのUCLAの練習室が使えないかなあ、と思ってUCLA構内をウロウロしていると、私の大好きなハービー・ハンコックの特別講義が2週間くらい行われることを掲示板の告知で知った。私は学生でもないのにすべての講義に「聴講させてください」と頼み込んで間近でハービーの授業を聞いた。すばらしくあたたかい人でますますファンになった。そしてどうしても家にピアノがほしいと思い、大家さんに相談した所「お宅の階下は耳が不自由なご老人だからいいよ」と言われたので、すぐに近所の楽器屋で月$50でKAWAIのアップライトをレンタルした。(No.2へつづく)